TommyGuerrero『サンシャイン・ラジオ(Sunshine Radio)』ロングインタビュー

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Photo by Claudine Gossett

2020年のアメリカは、コロナだけではなく、大統領選もあって、かなり社会的に荒れていましたが、何が原因なのでしょうか?

TG: 人々のコミュニケーション不足。批判的思考を持っている人が減っているから、問題の根源がどこにあるのかを考えなくなっている。人を理解するには、その人が歩んできた人生に自分も身を置いてみないといけない。そうすることで、その人が置かれている状況やその人の言動が理解できる。例えば、トランプの熱狂的信者は、こっちからしてみれば、カルト教団のリーダーに洗脳された人たちに見えるんだけど、彼らがなぜそうなったのかは俺らにはわからない。もし彼らと実際に会話してみて、彼らの人生の歴史を聞けば、なぜトランプを信奉するようになったかを理解できるかもしれない。そこから対話が始まり、アメリカはやっと傷を癒せるかもしれない。でも今は、現実を見る方が辛いから、みんなは現実に背を向けているんだ。

あなたがパウエル・ペラルタの1989年に発表されたスケート・ビデオ『Ban This』に出演した時に、手書きで“End Racism(人種差別を撤廃しろ)”というメッセージが書かれたスケボーに乗って話題になりました。このメッセージは、BLMムーヴメントが盛り上がった2020年にも通用しますが、なぜアメリカではなかなか人種差別が消えないのだと思いますか?

TG: 無知から始まった問題だよ。人々は真実を無視しようとしているし、過去に目を向けたがらない。そういう人たちは、奴隷制が存在していたことすら否定するし、有色人種が白人と同じ権利を持っていなかった時代があったことも否定しようとする。過去に有色人種が迫害されたから、今の現状があるんだ。なぜ貧富の差がここまであるのかというと、有色人種には、白人と同じ特権が与えられていなかったからなんだ。黒人、ヒスパニックの人々は、白人と同じ選択肢を与えられていなかった。黒人やラテン系の人々が社会進出するチャンスを奪う法律が実際にあったんだ。だから、白人と有色人種の貧富の差の原因は、歴史を辿ればわかる。白人には特権が与えられ、奴隷制によって大金持ちになった白人がたくさんいた。奴隷を利用することで、白人は無料で労働者を働かせることができた。アメリカの富裕層の白人はそう言った過去の事実に目を背け、彼らの多くは、先祖をたどっていくと、奴隷制を利用していた人たちなんだ。そういう人たちが、アメリカにおける抑圧、憎しみ、怒りの原因を作っている。誰も現実に目を向けたくないし、批判的思考を持とうとない。すべてのレベルにいる人間が現実に目を向けなければ、何も変わらない。アメリカにおける構造的人種差別を崩さないための法律がたくさんあったんだ。このような法律があったから、有色人種は白人と同じことができなかった。そんな状況では、有色人種は白人と同じ成功を手にすることができるわけがない。

あなたのインスタグラムで、最近また“End Racism”のグラフィックがプリントされたスケートボードに乗った写真を見ました。また、あなたが関わっているDLX傘下のスケートボード・ブランド、REALも“End Racism”のメッセージがプリントされたスケートボードを発表しましたね。なぜこのようなスケートボードを作ったのでしょうか?

TG: 世の中がそれを必要としているからだよ(笑)。自分たちが固く信じているメッセージだからなんだ。ジム・シーボーと一緒にこの会社を立ち上げたけど、彼の最初のREALのスケートデッキは、クー・クラックス・クラン(KKK)のメンバーが首吊りをしているグラフィックだった。これは1992年のデッキだったけど、このメッセージは昔から俺らが強く信じているものなんだ。社会を変化させたかったら、まずこの問題が存在していることを認めないと始まらない。アメリカの警察官による人種差別事件が多発しているけど、この問題があることをまず認めないと、変えることはできないんだ。俺らはメッセージを打ち出して、みんなを考えさせることで、変化を生み出したいんだ。

人種差別に反対するメッセージが入ったスケートボードは、チャリティのためにも作ったんですよね?

TG: そうなんだ。REALは750枚の“End Racism”のデッキを作って、それを全て無料で全国のスケートショップに配布したんだ。それぞれのスケートショップが好きな値段で販売して、その売り上げを全て地元の地域団体に寄付した。自分が個人的に作った“End Racism”のスケートボードについては、それに乗っている様子をクローディーン(トミーのパートナー)に写真で収めてもらって、それをプリントとして販売したんだ。その売り上げは、NAACP(全米有色人種地位向上協議会)に寄付された。

パンデミック、人種差別問題、アメリカの大統領選など、重苦しい問題が今年のアメリカで目立ちましたが、そんな状況でも音楽は人々に癒しを与えるパワーを持っていると思いますか?

TG: もちろん、音楽は人々を癒す力を持っているよ。パンデミック中に音楽を聴くことで、多くの人々は正常でいることができた。こんな状況でも、ファンがアーティストの音源を買うことで、アーティストをサポートしているし、俺もそれに感謝している。音楽で生計を立てている多くのミュージシャンは、ツアーができなくなって、職を失ってしまった。今の音楽業界は配信が主体になっているから、配信の印税だけでなかなか生活できるミュージシャンは少ない。だからツアーやライセンスに頼って生計を立てるミュージシャンが多い。ファンがアーティストを直接サポートしたい場合は、ヴァイニルを買ってあげるのが一番効果的だよ。

パンデミックによって、あなたの仲間のミュージシャンやスケーターは苦しい思いをしていますか?

TG: イエスとノーだね。オークランドでライブハウスを経営している友達は、1ヶ月前に店を閉鎖させる決断をしたんだ。レストランとナイトクラブを経営している友人も店を閉じた。バーのオーナーの仲間も何人か店を失ってしまったんだ。でもスケート業界はセールスが上がっている。ロックダウン中は、スケートボード、自転車、サーフ業界のセールスが大幅にアップしたんだよ。ロックダウンの初期は、すべてのスケートボードの製造工場が閉鎖されていたから、スケートショップはどこも商品を血眼になって探していた。でもメーカーは商品を供給できなかったんだ。どのスケートボード会社もオーダーが溜まっちゃって、需要に応じようとしていた。予想外の状況だったよ。ツアーできなくて苦しんでいるバンドもたくさんいる。メジャーなバンドではなく、インディーズ・シーンではツアーで生計を立てているバンドが多いから、彼らが一番苦しんでいるよ。配信ライブのチケットを売るのはなかなか大変だし、俺もあまり画面でライヴは見たくないタイプだしね。ライヴはやっぱり会場での熱気が大切だからね。失業手当をもらっている人が多いけど、それがもう少しで終わるから、状況が悪化すると思うんだ。バイデンはこんなにひどい状況で大統領になって、議事によって妨害されるだろうから、4年の間に何も変えられないかもしれない。そうすると、4年後にまたトランプが登場するかもしれない。トランプはニューヨークで色々な問題を起こしたけど、逮捕でもされなければ、また大統領選に出馬しようとすると思うんだ。そうならないことを願ってるけど。

最近はスケボーに乗れてますか?

TG: 二日前にスケボーに乗ったよ。俺をスポンサーしているコンバースが新しいスケートビデオを発表するんだけど、そのために撮影をしたんだ。撮影日は、体の調子が良くてスケボーに乗ることができたけど、二日経って体が痛んでるよ(笑)。スケボーに行きたくても、膝が痛くて乗れない日があるんだよね。なるべくたくさんスケボーに乗りたいんだけど、体の限界がある。撮影の10日前に足を怪我して、その後に旅行に行ったから、撮影前は3週間もスケボーに乗ってなかった。久しぶりにボードに乗ると、慣れるのにちょっと時間がかかるんだ。自分の体調を伺いながら乗るしかないんだよ。

昔と比べて、スケボーとの関係性は変わりましたか?

TG: もちろん。昔のようにいつもスケートできないからね。いつもスケートしていると、スケボーのことばかり考えるんだけど、スケートしてないと、そうじゃなくなってくるんだ。1ヶ月前くらいに、連続でスケボーに乗ってる夢を見ていたんだ。スケボーに乗りたいのに、体が言うことを聞かないから、鬱憤が溜まってる。体が言うことを聞かないと、その日はスケボーに乗れない。昔と同じスケートボードのトリックをやろうとしても、体が思うように動かないから、フラストレーションを感じてしまう。そういう時は、音楽に没頭するようにしているよ。昔も、足首を骨折してスケートできないかった時は、音楽を1年間くらい作ってた。俺は音楽という別の表現方法を持っていたから、ラッキーだったよ。

現在もマーク・ゴンザレスのスケートブランドKrookedのデザインの仕事はやっているのでしょうか?

TG: 今もDLXに在籍はしているけど、デザインやレイアウトの仕事は辞めたから、決まった役職はないんだ。反復性ストレス疾患、手根管症候群になったから、デザインワークはだいぶ前にやめたんだ。DLXのアート部門には優れたデザイナーがたくさんいるしね。でも、俺は今でもDLXの一員だよ。

レイ・バービーが、最近KROOKEDに加入したみたいですが、それはあなたのアイデアだったんですか?

TG: いや、レイから直接アプローチされたんだ。1年前くらいからこの件について話し合ってたんだよ。レイの前のスポンサーだったELEMENTのスタッフが変わり、とても企業的になってしまったから、彼は離れたがっていたんだ。それでレイから連絡があって、俺はDLXやマークゴンザレスと話し合って、マークが100%サポートしてくれて決定になったんだ。レイが来てくれたことで、所属スケーターはみんなエキサイトしていたよ。通常は、DLX_では40人のスタッフが働いているんだけど、今はパンデミックの関係で15人くらいしか会社にいないんだ。スタッフはみんなマスクしているし、誰も病気にならないように気をつけてる。でも俺はもう54歳だし、危険な年齢だから、DLXには行かないようにしているんだ。

まだパンデミック中でツアーはできないですが、『Sunshine Radio』はライヴでどのように再現したいですか?

TG:まだそこまで考えられてないよ。今回はキーボードを結構使ったから、どうやってそれを演奏するかを考えないといけない。マット・ロドリゲスはキーボードを演奏できるんだけど、彼はキーボードとパーカッションの両方をやることになるから、ちょっと大変なんだ。今はバンドとしてリハができないのも問題だね。チャック・トリースはフィラデルフィア、ジョッシュはロサンジェルスに今は住んでいて、マットはサクラメントに住んでいるから、なかなか集まることができないんだ。

すでに次のアルバムの素材があると言ってましたが、今後の予定は?マニー・マークともレコーディングしていると聞きましたが。

TG: 俺の次のアルバムは、全く新しいアプローチになるよ。サウンド的に美しい作品にしたいんだ。バリトンギターを使ったんだけど、それはギターとベースのちょうど中間の音域の楽器なんだ。普通のギターは1曲でしか使っていなくて、あとはベース、ドラムマシン、キーボードが入ってる。次のアルバムは、これまでとは全然違うものになるよ。マニー・マークとスケジュールの関係でなかなか会えないから、1年くらい彼とはレコーディングしてないんだ。それから。またジョッシュとロス・デイズのレコーディングを来年の春にやる予定だよ。それまでにワクチンが完成していることを願ってる。ブラックトップ・プロジェクトと2年前にモンティのスタジオでレコーディングした素材があるんだけど、そのセッションにはレイが参加していないから、レイのパートをレコーディングしないといけない。EPくらいの素材があるけど、まだ色々と編集をしないといけない。

今は世の中が大変な状況ではありますが、日本のファンにメッセージをお願いします。

TG: クリエイティブでいることを心がけてほしい。そうすれば、どんなに辛い状況でも乗り越えられるよ。


リリース情報

TOMMY GUERRERO Sunshine Radio
トミー・ゲレロ | サンシャイン・ラジオ

TRACKLIST

1. By the Sea at the End of the World
2. Evolution Revolution
3. Of Things to Come
4. Descendent of Memory
5. Down Thru Light
6. A Thousand Shapes of Change
7. Future Deserts
8. Up From the Dust
9. Quiet Heat
10. Rise of the Earth People
11. Mysterious Frequencies
12. The Road Under My Shoes

TOMMY GUERRERO Sunshine Radio
トミー・ゲレロ|サンシャイン・ラジオ
発売日本先行発売 A式紙ジャケット
TOO GOOD/RUSH PRODUCTION/OCTAVE-LAB OTLCD2530
税抜定価 : \2,400 + 税 2021 年 01 月20 日 (水)
ライナーノーツ:Hashim Bharoocha
Photo by Claudine Gossett

Tommy Guerrero × duo MUSIC EXCHANGE コラボTシャツ

■Tommy Guerrero自身が、duo MUSIC EXCHANGE、そして日本の音楽業界に向けて書き下ろした直筆のメッセージと、2016年12月にduo MUSIC EXCHANGEにて開催されたジャパン・ツアーの際、写真家のClaudine Gossettが撮影したライブ写真をプリントした、完全オリジナルデザインのTシャツ

¥3,500 (tax-in)
※別途送料がかかります。

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TOMMY GUERRERO

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Photo by Claudine Gossett

カリスマティックなスケーターとして世界のストリートに影響を与え、オリジナリティ溢れる サウンドで多くの支持を得ているミュージシャンでもある、真のストリート・アーティスト。 サンフランシスコ出身。伝説のスケートボード・チーム【Bones Brigade】最年少メンバーと してシーンに登場。抜群の知名度と影響力を持つオリジナル・ストリートスケーターとしてス ケートボード界で成功を収めた。その後、ミュージシャンとして音楽活動も開始。98年に発表 したデビューアルバム『Loose Grooves & Bastard Blues』がロングセラーを記録、音楽シー ンでも確かな地位を確立する。Galaxia、Moʼ Waxなどのレーベルからのリリースも含め、作品をコンスタントに発表。オリジナル・アルバムを10枚発表している。近年ではリリースの度に大規模なツアーを行い、日本でも数カ所ツアーを行い、新たなファンを獲得している。又、 日本ではキューピーのCMに書き下ろした「Mayo(It Gets Heavy)」でも有名に。日本のストリートカルチャー・シーンでも絶大な人気を誇るカリスマ的アーティスト。

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